株式会社 遊友館
宵闇幻影奇譚:黄泉返り、共に歩むPBW

華羅皇学院オカルト研究会

■オカルト研究会
 華羅皇学院は、学院地区の中央にある私立大学。明治時代に明治政府の要人「垂水当麻」によって設立。設立時より運営資金は大財閥「垂水財閥」からの寄付によって成り立っている。設立時は風俗学・文化人類学の単科大学だったが、時代と共に学部を増やし、現在は幼等部、小等部、中等部、高等部を内包する総合学院となっている。

 オカルト研究会は、華羅皇学院のサークルの一つ。
 様々なオカルト現象の調査・研究を行なっており、母体となっているサークルは戦前から存在している。サークル員の所属する条件は特に無く、在籍者には学外の者や市内の小学生さえいる。
 WEB配信会誌「OKARUTO」は、その筋では有名なオカルト情報誌として認知されている。

●ゲームシステム上での役割
 シナリオ型ノベル商品の参加場所の一つです。



■華羅市のとある風景『華羅皇学院オカルト研究会の麗かな午後』

 かちりと長針が動いたーー。
「時間ね」
 その一言で、室内に緊張が走る。
 並べられた長机に座っている者達の目が、正面の席に座る少女へと集まった。
「あ……あの……」
 幾つもの視線に怯えたように下を向いた少女が、か細い声でいつもと同じ言葉を紡ぐ。
「か……華羅皇学院……オカルト研究会の、定例会を始めます」
 小さな声の宣言に、隣に座っていた金髪の少女が額を押さえた。
「もうそろそろ慣れてよね、『会長』」
「だ……って、私、会長なんて……」
 ふにゃりと顔を歪めた『会長』海老塚汐に、金髪の少女は「はいはい」と慣れた様子で軽くいなす。
 華羅市学院地区の中央に位置する華羅皇学院のオカルト研究会、通称オカ研。
 ぶっちゃけた話が、世にゴロゴロ転がっている心霊ネタやオカルト現象の噂を調査したり、研究したりするという、これまた世の中によくあるサークルだ。
 ただし、華羅皇学院のオカ研はそんじょそこらのオカルト同好会とはちょっと違う。
 母体となっているサークルが開設されたのが戦前だという、由緒正しいオカルトサークルである事は、一般人には「ふぅん」で済まされる程度の豆知識だ。
 サークルのメンバーが学院の生徒に限らないというのも、他とは違う点だろう。噂では小学生や、一線を退いて悠々自適生活を送るお年を召したサークル員までいるという。
 幽霊会員ともなると、それこそ星の数だ。
 そして、更に華羅皇学院のオカ研の名を世間に名を広めているのが、WEBで配信されている会誌『OKARUTO』。
 この手の読み物には大袈裟な煽りや興味本位な内容が多いが、『OKARUTO』は学院のサークル活動の会報とは思えぬ程、取り上げられる情報、その裏付け調査が事細かく記されてある。
 眉唾物と思われがちなオカルト現象に対する真摯な姿勢も相俟って、その筋では有名なオカルト情報誌として認知されているのだ。
 そんなオカ研の会長に、つい先日、転校して来たばかりの汐が納まったのは、隣の金髪少女の根回し……もとい、アピールの結果であると、もっぱらの噂である。
アーシェス・クロウ  当の汐はと言えば、オカルト系の事柄はどちらかと言えば苦手なようで、心霊写真の類などを見せられたら卒倒でもしかねない雰囲気だ。
「ともかく、始めるわよ。えー、まずは副会長の私から、重大発表です」
 がたんとパイプ椅子を鳴らして立ち上がった金髪の少女は、ばんと机に両手をついて室内を見渡した。
 部室としては他のサークルと比べても広い方だが、いっぱいいっぱいに詰め込まれた長机と、壁に並んだロッカーと棚のせいか狭く感じる。勿論、それは部屋中に散乱する怪しげな本や、所狭しと貼られた写真、今にも崩れて落ちて来そうな紙の山にも原因はあるのだが。
 サークル員達の視線が自分に集まったのを確認すると、オカ研副会長、アーシェス・クロウはこほんと咳払った。
 部室に集った数十人の視線の中、アーシェスはまっすぐに顔を上げて、きっぱりと言い切る。
「実は私、業魂なの!」
 その瞬間、部室に走った衝撃を何と表せばよいのか。
 突如として襲って来た突風に吹き飛ばされかれたカタチで固まった者数名。
 ぽかんと口を開けたまま、アーシェスを見つめる者数名。
 その他、両手両足を奇妙な形に曲げて、その場でくるくる回り出す者、両手を挙げて天を仰ぎ、儀式めいた呪文を唱えつつ平伏する者。
 アーシェスの告白に対する反応は様々だった。
 宵闇の者や業魂は、外見上、基本的には人間と変わらない。もちろん、オカ研にも正体を隠している宵闇の者や業魂はいる。彼らは自らと同じような存在を『視る』事によって知る事ができる。だから、汐やアーシェスが、自分達と同類である事は知っていた。
 しかし、知っているからと言って、簡単に正体を明かす事には慎重になっていた。アーシェスの宣言は、ある意味、彼らの常識を超えたものでもあった。
 その衝撃をもたらした張本人はと言えば、妙にさばさばとした顔で、腕を組み、満足げに頷いていたりする。
「うんうん。皆、驚くわよねぇ。予想通りだわ」
「ア……アーシェ」
 つんと袖を引いた汐に、アーシェスは片目を瞑ってみせた。
「大丈夫だってば」
「でも……」
 衝撃で飛ばされた先から戻って来ないサークル員とアーシェスとを交互に眺めて、汐は俯いた。アーシェスの袖は掴んだままだ。手を離すと、そのままアーシェスと離れ離れになってしまうと言わんばかりに、袖を握る手にぎゅっと力を込める。
 けれど、当のアーシェスは心配無用と言葉を続けた。
「皆に隠すのが面倒になっちゃったのよね。あー、すっきり。でも、これだけははっきり言っておくわ。アングラで噂の業魔と私は違うわよ」
 業魔。
 それは人々の間で都市伝説や怪談話しのように語られている、一種のゾンビだ。当然ながら、オカ研にも業魔に関する目撃情報は多々寄せられている。アーシェスがカミングアウトした業魂は、『人間に擬態した業魔』……つまり、人の姿をしたゾンビだというのが一般的な見解だ。
 ざわざわと部室にざわめきが満ちる。
 サークル員達が驚くのも道理である。
 つい、先ほどまで調査対象として語られていた『業魂』が目の前にいるのだ。しかも、自分達の属するサークルの副会長として。
「ふ……副会長、業魂とは一体、どんな存在なんですかっ!?」
 好奇心に負けた者達が、質問を投げかけたのを皮切りに、次々とアーシェスに詰め寄って質問疑問をぶつけていくサークル員達。
 勿論、中には冷静な者達もいた。難しい顔をして考え込む者、心配げにアーシェスの様子を見守る者、それぞれが一歩退いた様子で、副会長の突然の告白の成り行きを見守っている。
「ほらね、私が業魂だって言っただけで、これでしょう? 私だって普通の女の子なのに、傷ついちゃうなぁ」
 いや、普通じゃないから。
 普通の女の子は転校早々、友人を会長にする為の根回し工作したり、『ザ・トラブルメーカー』などという異名を頂戴したりしないから。
海老塚・汐  ぶんぶんと手と頭を振って、異を唱えた者達を黙殺すると、アーシェスは最初に詰め寄った男子の手を取った。
 彼女の手首に巻かれたチェーンがちゃらりと軽い音を立てる。
「ねえ、私に、どこか普通の子と違う所がある?」
「え、えーと……その……」
 金色の長い髪。ドイツ人とのハーフであるというアーシェスの、うるうると潤んだ碧い瞳で見つめられ、その細く白い手でぎゅっと手を握られて、男子は途端に赤くなってしどろもどろに口籠もった。
「ど、どこにもありません……」
「でしょう? 私は業魂だけど、業魔なんかとは違うの。普通の人間と変わるところなんて無いの。怪我をすれば痛いと思うし、血も赤いし。なのに、オカ研の皆でさえ、これだもの。何も知らない人から見れば、私も業魔と同じ。気味が悪いとか怖いとか思われちゃうんだわ。そして、きっと業魂狩りとかで狩られたりするのよ。そこまで行かなくても、町で石をぶつけられちゃうかも……」
 はあ、とアーシェスは憂鬱そうに溜息をつく。
「悲しい……よね」
 ついと顔を背けたアーシェスの目元に光るものを見つけて、詰め寄っていた者達は慌てた。
「あ、あのね、アーシェ、私達、アーシェの事、気味悪いなんて思ってないからッ!」
「副会長は副会長だしっ!」
「てゆーか、副会長の事、前から可愛いなーって思ってましたからッ!」
 どさくさ紛れも混じっているが、とりあえずオカ研メンバーにはアーシェスが業魂であるという事実は受け入れられたようだ。
「あっ、副会長、実は俺も……」
 会議室の端に座っていた男性が、手を上げる。
「実は俺は宵闇の者なんだ。で、隣のが業魂ね」
 去年、華羅皇学院大学部を卒業した男性会員が宣言する。隣に控えていたのは今年、結婚式を挙げたばかりの女性だ。
「これまで必死に隠していたのが馬鹿みたいだ。副会長の胆力には敬服するよ」
 笑いながらアーシェスに握手を求める男性。
 お互いに正体を隠しあっていては、円満な人間関係は築き難い。だが、慎重になるのも仕方がないと言える。何と言っても彼らは人外の存在である。一般人の目を気にすれば、何かと慎重になるところであろう。オカ研にはもちろん一般人もいたのである。
 しかし、アーシェス達の勢いにつられて、我も我もという形で、宵闇の者や業魂達が正体を明かしていった。
 『正体を隠す』という行為は、よほど重荷になっていたのであろう。
 オカ研はそんな彼らにとって、心のオアシスといえる場所になっていった。
 汐にだけ分かるように机の下でぐっと親指を立てたアーシェスに、汐は眉を寄せた表情のまま息を吐く。
「会長」
 そんな汐に、サークル員の1人が話しかけた。
 アーシェスに聞かれたくないのか、汐の耳元で声を潜めて囁く。
「会長も、アーシェス副会長が業魂だって事、ご存じだったんですか?」
 そのあまりに近い距離に、汐は思わず体を退いた。
 そんな事はお構いなしに、サークル員は開いた間を詰めるように身を寄せて、1人で会話を進めていく。
「そういえば、副会長って、汐会長と一緒に転校して来たんですよね。もしかして、前の学校で副会長が業魂だってバレて、この学院に来たとか……」
「…………お……です」
 聞こえて来た消え入りそうな声に、サークル員は「ん?」と首を傾げた。
 ふと見れば、座ったままの汐が制服のスカートをぎゅっと握り締めて、目元に大粒の涙を浮かべている。
 これには、さすがにサークル員も焦った。
「し、汐会長っ!?」
「しお、じゃなくて……うしお、です……」
 それだけを言い切って俯くと、目元に溜まっていた涙の粒が、つぅっと頬に流れて落ちる。
「え、ええっ!?」
「ちょっと! 汐を泣かせないでよッ!」
 ぽろぽろ涙を零す汐を引き寄せて、アーシェスは怒気も顕わにサークル員を睨み付けた。
「いや、その……俺は……ちょっと名前を間違……」
「汐は繊細なんだから! て言うか、誰だって名前を間違われて良い気はしないでしょ!」
 確かにアーシェスの言う通りだ。
 素直に非を認めて謝ったサークル員に、睫の先に涙の粒をつけたままの汐がアーシェスの服を引っ張った。
「アーシェ……もう」
「まったく汐ってば。……仕方ないわね。いい!? 汐がもういいって言ってるから、今回はお咎めなしよ。でも、今度、汐を泣かせたら資料庫の写真整理係に任命しちゃうからッ!」
 げ、と周囲にいた数人が後退る。
 資料庫の写真と言えば、セピア色に色褪せた白黒写真から最近のデジタルプリントまで、このオカ研の創設からずっと収集され続けて来た心霊写真の山の事である。そのあまりの量と『祟る』という曰くつきの写真の多さに、誰も手が出せないで放置されたままになっているのだ。
 更には資料庫自体、中に『何』があるのかサークル員達も把握しきれておらず、何故か入り口には怪しげなお札が貼られ、魔除けアイテムががっちりと周囲を固めている不気味な場所だ。
 そんな場所で大量の心霊写真の整理だなんて、いくらオカルト現象に興味のある彼らとて遠慮したいらしい。
「さ……さすがは副会長……」
 流れ落ちる冷や汗を、サークル員達が拭ったその時、何処からか奇妙な音が聞こえて来た。
 日本に住む者ならば、1度は聞いた事がある音。
 だがしかし、学院内では聞く事がないはずの音だ。
「ぶ、会長ッ! どこからか木魚の音がッ!! これは怪異現象に違いありません! 今すぐ調べに……」
 興奮気味に汐へと詰め寄るサークル員の頭上にチョップを落とし、トドメにデコピンをくらわせて、アーシェスは腕を組んだ。
「落ち着きなさいよ。あれは、ただのパソコンのメール着信音なんだから」
 何故、着信音が木魚!?
 サークル員達の疑問を知ってか知らずか、アーシェスはパソコンデスクの上に積まれた紙の山を落としながら、楽しげに説明する。
「昨日、ネットで見つけたのよね。ほら、オカルト現象報告の専用着信音にぴったりじゃない? あ、途中でちゃんとりんの音も入ってるのよ。凄いでしょ」
 凄い。
 何が凄いって、そんなのを見つけてくるアーシェスが凄い。
「パソコンの起動音にするか、着信音にするか悩んだんだけど、結局、こっちにしちゃった。起動音は錫杖の音ね」
 黙り込んだサークル員達を、アーシェスは不思議そうに見て首を傾げた。
「駄目? やっぱり般若心経の方がよかった?」
「……アーシェ」
 先にパソコンを覗き込んでいた汐が怯えた声を上げる。その呼び声に振り向くと、アーシェスはディスプレイに映し出された1通のメールに素早く目を通す。
「これは……ちょっと興味深いわね」
「し、調べたりなんかしない……よね?」
「調べたりしない……なんて思う?」
 怯える汐に笑いかけると、アーシェスは会員達を振り返った。
「皆、興味深い不思議現象の報告が届いたの! これはもう、調べてみるしかないわっ!」
 ぐっと拳を突き出して高らかに宣言したアーシェスに、会員達がわらわらと動き出す。
 パソコンに届いた内容の確認から始まり、にわかに部室は活気づいた。
 ……まあ、先ほどからずっと賑やかではあったが。
 それはともかく、アーシェスの一言でオカ研が動き出す。
 これまでの長い活動で集められた資料を引っ張り出して来るサークル員達の様子から傍らに立つ友人に視線を移すと、汐は恐る恐ると尋ねた。
「アーシェは……こういうの怖くないの?」
「副会長は業魂だから、怖くないですよね」
 汐の言葉が聞こえていたのか、近くで事前調査を開始していた数名のサークル員達が笑いながら茶化す。
「何よ、業魂だって、怖いものは怖いし、面白いものは面白いのよ!」
 んべっと舌を出したアーシェスは、ふと思い出したように「あ」と声を上げた。
「分かってると思うけど、オカ研に宵闇の者や業魂が沢山いるって事、オカ研以外の人達に喋っちゃ駄目よ。これは、オカ研だけのひ・み・つ、なんだからね!」

writing by 桜紫苑
illust by 天神うめまる(海老塚・汐)
illust by ナイダ・ヒカル(アーシェス・クロウ)
illust by ふぉ〜ど(華羅皇学院)
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