株式会社 遊友館
宵闇幻影奇譚:黄泉返り、共に歩むPBW

タイガ警備保障心霊対策課

■タイガ警備保障心霊対策課
 タイガ警備保障の対ラルヴァ(「業魔」のタイガ側の呼称)特別対策チーム。表向きはタイガ警備保障の警備部門の一部署ですが、実体は社長の娘である「大河アカリ」の私設サークルに近い。
 タイガ警備保障の資金力と技術力を活かして、ラルヴァの研究を行っており、様々な対ラルヴァ装備の開発に成功している。しかし、公的組織ではなく、社会的には秘密組織という立場になる。タイガーグループとしても彼女達の行動を社会的に公認させるつもりはない。

 研究実験の為、密かにラルヴァの捕獲に努めている。タイガとしても非公認活動の為、おおっぴらに社員を割く事はできず、人手は慢性的に不足しており、知り合いの宵闇の者や業魂の協力を常に求めている。

●ゲームシステム上での役割
 シナリオ型ノベル商品の参加場所の一つです。



■華羅市のとある風景『タイガ警備保障心霊対策課 短期警備員契約希望者説明会』

 タイガ警備保障のビル内。入り口にそんな看板の掛けられた一室。整然と机と椅子が並べられた室内に散らばるように席を取るのは、宵闇の者と業魂……あるいは腕に覚えのある人間。
 彼らは、心霊対策課で短期警備員として働く契約を結ぶ為……もしくは契約を結ぶか否かの判断を下すに必要な情報を得る為にここへと来ていた。
 契約を結べば、一仕事ごとに仕事を請け負う短期労働者として心霊対策課で働く事が出来る。就労期間は一つの仕事が終わるまでで、さほど長期に渡る仕事はない。仕事を受けていない間の拘束は一切無し。契約者の社会的生活や身分に、タイガ警備保障から干渉する事もない。日給制。労災および失業保険無し。
 条件は幾つも並ぶが、いわゆる日雇いのアルバイトをする為の契約と思って良い。
 とは言え、日雇いのアルバイトと言って馬鹿に出来ない程の報酬、そして或る者達にとっては自分達の能力を活かせる場として、魅力のある職場と言えるのかも知れない。
 しかし、その魅力をもってしても、この部屋を満室にする程の人を呼ぶ事は出来ない。それは、ここで与えられる仕事の特殊性に理由がある。簡単に言えば……常人ならば容易に命を落とすと言う事実だ。
 無論、その事実は契約前に知らされる。
 真剣な眼差し、驚愕の表情、挑発的な視線、様々な表情を見せながら契約希望者達が見ているのは、彼等の正面にある壁一面を覆う様な巨大モニターの中に映し出されるビデオ映像。そこには五人の人物が、木々に囲まれた山道らしき場所に立っているのが映し出されていた。

 タイガ警備保障の制服の上に、ヘルメット、防護ベスト、グローブ、脛当などの近代的防具を身につけた男が四人。各々、手にアサルトライフルを持ち、周囲に警戒の目を向けている。
 その内の一人、他のメンバーより少し年嵩の男には、『班長』と書かれた腕章が着けられていた。この仕事をするに当たっての一応のリーダーとして、同じ仕事に就く者達の間で決められた事であり、恒久的な役職や階級ではなくこの仕事の間だけの事なのだが、仲間に認められて責任を負う以上はそれなりに経験を積んだ人間なのだろう。
 そしてもう一人。それは高校生位の少女だった。このロケーションに場違いな、女の子らしいごく普通の服装。その上に防護ベストとヘルメットを着慣れぬ様子で身につけている。場慣れした様子を見せている男達とは違い、彼女は明らかに一人だけ過度の緊張の様子を見せていた。
 そんな彼女がここにいる理由は明らかだ。彼女の右腕、肘から先が金属の質感を持つ存在へと置き換わり、その先は長大な剣となって長く伸びている。宵闇の者と業魂……ラルヴァと戦い得る者。それ故である。
 彼ら五人……撮影者を加えれば六人がここにいる理由。それはこの山に潜む存在を探し出す事。あるいは、その存在が彼らを見つけ出しても良い。展開は同じ事になるだろう。すなわち、襲撃と戦闘だ。
 そして、その存在は、狂気じみた怒りの咆吼と共に、若木を押し倒しつつ茂みの向こうからその姿を現した。
 四つ足で走っている所を見るに、元は動物なのだろう。全身の筋肉は無秩序に膨張し、牛程は有ろうかという身体を歪に盛り上げていた。人の腕のように太く長く膨れあがった前肢には、拗くれ曲がった鉤爪が見える。後肢は元のままなのか短いが、強靱な筋肉で毬の様に膨れており、地を一蹴りする度にその巨体を軽々宙に走らせた。
 その頭部のみ、元の姿の残滓を見せている。無数の牙に飾られている、前へ突き出た顎。鋭く三角に尖った耳。黄色く濁った目。異形の箇所はあれど、それが犬の頭部だという事は見て取れた。首に飾られた、朽ちかけた赤い首輪を見るまでもなく。
 その犬がどういった経緯を辿ってこの末路を迎えたのかは誰にもわからない。しかし、今や救う事の出来ない“ラルヴァ”と化し、人の敵となったという事は、その姿を見る者全てが理解している事だった。
 ラルヴァは一瞬の迷いもなく、そこにいる五人の警備員達に襲いかかる。ラルヴァが最初の獲物と定めたのは、ラルヴァの出現に驚き身を竦ませる少女だった。
 距離は、ラルヴァにしてみればほんの一跳躍。巨体に見合わぬ身軽さで宙にその身を跳び上がらせたラルヴァは、木々の枝葉を折り散らせながら少女めがけて躍りかかる。
 少女の反応は完全に遅れていた。右腕と一体化した剣を持ち上げようとしているが、ラルヴァを捉える事は出来ていない。
 振り下ろされるラルヴァの爪に触れられれば、宵闇の者とて容易く肉片へと変わる事だろう。身体については、少々頑丈な人間というだけの事でしかない。
 少女に死が迫る。だが、その死は高らかに鳴り響く銃声が退けた。
 ラルヴァの出現に何ら怯む事のなかった男達が、アサルトライフルを構えて銃撃を行っている。それは狙い外さず、宙にあるラルヴァの身体を捉えていた。
 銃弾はラルヴァの身体を易々と貫き、体表を泡立てんばかりに穴を穿つ。肉体を穿たれる苦痛にラルヴァは宙で姿勢を崩し、狙いを外して地面に下りる。
 少女から僅かに離れた所に下りたラルヴァは、痛みと怒りに咆吼を上げて男達に注意を向けた。
 この間も男達の銃撃は行われていたが、ラルヴァの体表では、傷付く端から内から盛り上がる肉に潰されるかの如く傷が塞がれていく。
 ラルヴァの異常な生命力は、個人が携帯出来る武器程度は無効と言って良い程の耐久性をラルヴァにもたらす。銃で撃とうと、刀で切ろうと同じ事。ラルヴァを一時的にでも倒すには、一撃でラルヴァの肉体を破壊出来る程の攻撃か、あるいは……
 瞬間、銃声が一斉に止む。
 それを好機と見てか、ラルヴァは男達へ襲いかかるべく、身体をたわめた。全身の筋肉が張りつめ、次の跳躍の為の力を溜める。
 その瞬間、ラルヴァは忘れていた。自らに痛みを与えた小賢しい人間への怒り故もあったろう。最初の獲物を容易く屠れる相手と見た油断もあった。しかしそれは致命的なミスだった。
 自らの天敵とも言える存在……宵闇の者と業魂の存在を忘れた事は。
 直後に、ラルヴァを横合いから斬撃が襲う。少女が闇雲に振り下ろした右腕の剣は、ラルヴァの左横腹を深々と切り裂く。苦痛と驚愕に軋むラルヴァの絶叫。そして続けざまにもう一太刀。下ろした剣を振り上げ、少女はラルヴァの左腕を切り刎ねた。
 ラルヴァの身体からどっと血が溢れ、少女の頭上に降り注ぐ。自らの成した事に恐怖を感じてか、少女は動きを止めて僅かに後ずさった。
 苦痛に身を捩るラルヴァ。その身体に刻まれた傷は早くも塞がり始める。落ちた腕も、新しく生え始めていた。
 だがそこに、新たに銃撃が加えられる。三人の男達が、弾倉交換を終えたアサルトライフルを手に前進しつつ、射撃を行ったのだ。
 新たに穿たれた傷に、先の斬撃に傷ついていたラルヴァの身体は揺れ、弾着の衝撃に押される様にしてその身を倒した。
 ラルヴァが倒れた音に少女は我に返り、改めて剣を振り上げる。
 少女が動く瞬間、男達は銃撃を止めた。誤射を防ぐ為だ。
 少女が、地面に身を投げ出してのたうつラルヴァに新たな傷を与え、反撃を受ける前に後に退く。少女が退いて体勢を立て直す間、男達が銃撃を行ってラルヴァを牽制する。場慣れしている男達は、少女を的確に支援していた。
 ラルヴァは、少女と男達が繰り返し行う攻撃に為す術もなく、次々に刻まれる新たな傷を再生しつつ、怨嗟の声を上げながらのたうつ。
 そんな戦闘の後方、前進せず一人残っていた班長は、アサルトライフルの銃把を放してスリングベルトで肩から提げると、腰の後ろからもう一丁の銃をとりだした。
 対業魔捕獲マーカー射出銃。タイガ警備保障が開発した特殊装備である。
 班長はそれを無造作に構え、ラルヴァへと向ける。地を這うラルヴァの巨体は、外す筈もない格好の的だった。
 撃ち放たれた弾丸は狙い外さずラルヴァへと当たり、皮と肉を破って体内へ埋没する。
 その弾丸はマークタグと呼ばれており、着弾と同時に作動し、特殊な霊的干渉波を発する。ラルヴァを捕獲する為のプロセスの第一段階として。
 ここで視点を説明会に参加した契約希望者に戻す。彼らの見る映像の片隅に、六十秒のカウントダウンが表示された。ここからのプロセスはマークタグを撃ち込んでから一分以内に完遂しなければならないのだ。
 再び映像の中、残る男達は急ぎラルヴァに駆け寄り、三人で囲う様にラルヴァの三方へと立つ。その手に持っている物は厚ぼったい円盤型の機械。三人は取っ手部分がラルヴァを向くようにして、それを次々に地面に置いた。
 と……ラルヴァが無事に残る右腕を振るい、男の一人を狙う。鞭の様にしなる腕は、とっさに地面に転がった男が一瞬前までいた場所を薙ぎ、鋭い風切り音を立てた。
 そしてラルヴァのその腕は宙で止められ、高く掲げられる。次には、勢いよく振り下ろされ、地に伏す男に叩きつけられるだろう。
 だが、ラルヴァがそれを行うよりも早く、ラルヴァの周囲三方に置かれた機械が一斉に稼働した。ラルヴァへと向けて二枚貝が口を開くように円盤状の本体が開き、その開口部より光を照射する。
 業魔拘束力場発生器。光は拘束力場が視覚化されたもの。三機以上を使って囲う事で、ラルヴァを拘束力場に包み込む事が出来る。
 そして直後、ラルヴァの体内に埋没したマークタグから、放電の様に閃光が溢れ出た。その不規則に折れ曲がり枝分かれする光は、ラルヴァの体表に茨が這うかの如く絡み付き、その強靱な肉体を軋ませる程に強く拘束していく。
 後方、対業魔捕獲マーカー射出銃を下ろした班長が、空いた手に小さなリモコンを握っていた。仲間に死が賜れるより一瞬早く、彼が業魔拘束力場発生器を起動させたのだ。結果、ラルヴァは拘束力場に囚われた。
 しかし、カウントダウンはまだ止まっていない。まだ、もう一つやらなければならない事がある。それは、ラルヴァに駆け寄る少女に託されていた。
 拘束力場から逃れようと全力を振り絞るラルヴァは、全身の筋肉を怒張させてガクガクと身体を揺すらせている。拘束力場とラルヴァの力とのせめぎ合い。もし、ラルヴァの力が勝れば、その瞬間に拘束力場は崩れ、解き放たれたラルヴァは警備員達を襲うだろう。
 その時、最初に襲撃を受けるのは、今もっとも近くにいる少女である。
 無論、彼女もそれを十分すぎる程わかっている。今が最も危険な瞬間なのだという事を。しかし、これだけは宵闇の者である彼女が成さなければならない。
 少女は右腕の剣を腰だめに構える。狙いは、ラルヴァの腹に埋まり込んだ様に貼り付く業命石。そこから僅かに横の位置に、駆け込んだ少女の剣の一突きは刺さり込んだ。
 生命の危機を感じてか、あるいは単に苦痛故か、ラルヴァは今まで以上に拘束に抗い始める。動かなかった身体が、軋みを上げながらも僅かずつ動こうとしていた。
 しかし、その間も少女の剣は、業命石の縁をなぞる様にラルヴァの肉を切り裂いていく。少女の身体が傷口から吹き出る返り血に汚れていく。そして、ラルヴァの抵抗が結果を生み出す前に、業命石は剣に抉り出され地に落ちた。
 ラルヴァは生命の源……いや、本体その物を失い、残された空虚な肉体は力無くその場にくずおれる。少女も、役目を果たしたという安堵に、その場にへたり込んだ。
 そこに、男の一人が駆け込んだ。彼は機械的な仕掛けの箱を抱えており、その蓋は既に解放され、中に封じられる物を待っている。
 業命石保管装置。対業魔捕獲マーカー射出銃と業魔拘束力場発生器を使った一連のプロセスを経なければならないが、ラルヴァを殺す事無く封じる事が出来る。
 拘束力場の中で抉り出された業命石は、拘束力場の力が働いていて再生が始まらない。その状態のまま業命石保管装置に入れる事で、再生を防いだ状態での捕獲が完了する。
 男は業命石の周りに残るラルヴァの肉の部分を掴んで業命石を持ち上げ、業命石保管装置の中に入れて蓋をした。
 画面隅のカウントダウンが数秒を残して停止する。ラルヴァの捕獲が達成されたのだ。
 捕獲の成功を確認した警備員達の間に、僅かにだが安堵の空気が流れた。後、このラルヴァに関しては、業命石保管装置と死体を回収するだけで終わる。
 だが次の瞬間、遠く周囲の木々の向こうから、幾つもの怪しの声が上がった。その声は、いまだこの山に多数のラルヴァが潜んでいる事を教えていた……

 と、ビデオが停止させられ、モニターの電源も切られた。ビデオに注視していた者達は、集中を解かれて微かにざわつきを見せる。
大河・アカリ  そして彼らの視線は、モニターの脇、プレーヤーの傍らに立つ二人に向けられた。
 10代後半くらいにしか見えない赤毛の娘……大河アカリ。気の強さが、その発言を待たずとも表情から十分に見て取れる。仲良くなるのは、なかなか難しそうな娘だ。
 もう一人は、ワイシャツとタイトスカートの上に白衣を引っかけた女性で、年の頃は30過ぎか。芹沢千雨……美人ではあるが、仕事の話以外はお断りと言うかの様な雰囲気をまとっており、その魅力をマイナス評価にまで落とし込んでいる。
 二人はタイガ警備保障心霊対策課の主要人物らしく、この説明会には最初から臨席していた。ビデオが終わったからには、二人が次のアクションを起こすのだろう。
 その予想は当たり、契約希望者達の視線が十分に集まるのを待ってから、満を持したとばかりに不敵な笑みを浮かべた大河アカリが、マイクを片手にモニター前に歩み出た。
「この後、この現場では三匹のラルヴァを捕獲し、四匹のラルヴァを滅ぼしたわ。かなり早い内に依頼があって、対応も素早かった筈だけど、それでも計八体のラルヴァが発生していたの。ラルヴァが一匹でも発生すると、その場所で凄い勢いで増殖するって事ね」
 ラルヴァに殺された生物は、普通に死んだ生物より遙かに高い確率でラルヴァと化す。そしてラルヴァは、ほとんど手当たり次第と言って良い程に生物を殺していく。
 死体のラルヴァ化を防ぐ方法もあるが、死んですぐに処置しないと効果がない為、ラルヴァの増殖を防ぐ事は出来ない。ラルヴァとの戦闘で死んだ仲間に引導を渡すくらいの事しかできないのが現実だ。
「で、ビデオのは下等のラルヴァだけど、一匹相手に熟練の警備員四人と宵闇の者と業魂が当たって初めて仕事と言える戦いが出来るって所。最低でも、宵闇の者と業魂は欠かせない。こんなのが人を襲いだしたら、洒落にならないって事はわかるわよね?」
 ビデオの中の人間の警備員達は各々が訓練を積んだプロで、違法である銃火器とタイガ警備保障制作の装備品を使い、さらに宵闇の者と業魂を入れて班を組み、ラルヴァに対抗している。逆に言えば、生身の一般人はラルヴァの前では獲物でしかないと言う事だ。
「タイガ警備保障心霊対策課は、表向きは普通の警備部門として活動してるけど、主にラルヴァ関連の警備業務や捕獲業務を請け負ってるわ」
 実際には、要人警護、金品護送、施設警備、イベント警備、交通整理、駐車場整理、啓蒙活動、等々警備会社の業務の範疇ならばどんな仕事でも発生しうるが、心霊対策課ではそのどれもにラルヴァがつきまとうと考えて良い。それに加えて、有害鳥獣駆除の名目でラルヴァ駆除といった仕事もやってくるわけだ。
「つまり、あんた達は、そんな危険な化け物と戦う職場にやってくる命知らずさん達ってわけね。これから一緒に働く事になったら、期待を裏切らないでちょうだい! ってか、むしろ良い意味で裏切って見せなさいよね!」
 大河アカリは胸を張るというか、ふんぞり返ると言った方が良いような姿勢で居丈高に言い放つ。しかし、それでも見下している調子はなく、合わない言葉で無理に激励してる様な風に感じられた。恐らくは、「一緒に頑張りましょう」くらいの素直で当たり障りのない台詞を吐く事も出来ない、難儀な性格なのだろう。
 それを示すかの様に、大河アカリはあの下手を打ったら喧嘩を売っているように取られかねない言葉でも気恥ずかしかったらしく、僅かに頬を染めつつ慌てて芹沢千雨の方に顔を向けて言葉を発した。
「んじゃ、後は芹沢千雨課長からよ!」
 大河アカリが最後にそう言って話を振った事で、この場にいた者達は各々困惑を覚えた。
 皆、大河アカリが何か相応の立場にあると思い込んでいた……とりあえず子供にしか見えない容姿はさておいて、その偉そうな立ち居振る舞いから。
 しかし、心霊対策課の課長は芹沢千雨。彼女が最も偉い筈なのだが、大河アカリはもっと偉そうにしている。性格の問題だけではなく、実際そのように振る舞う事が許されてもいる様だ。しかし、仮に芹沢千雨以上の上役となれば、ここに居る者達と一緒に働くという事はないだろう。となると、役職的には低くとも、何か強い発言力を持てる理由があるのか……
 疑問は残るのだが、その疑問に解を出すことなく芹沢千雨が大河アカリと入れ替わりに立ち、後を引き継いだ。
「では、私からはまず諸注意から」
 見た目の印象そのままに、愛想など欠片も見せずに必要な事だけを言う。何というか大河アカリの事もあり、人付き合いの難しそうな職場だと、その場の皆が思った事だろう。しかし、そんな感想など一切気にせずに芹沢千雨は話を始めた。
「まず最初に……ここでの仕事には、幾つかの違法行為が含まれます。それに関しては関係各所との裏取引がありますので、問題になる事はない筈です。ただし、それはあくまでも上層部との話は付いていると言うだけの事、末端の警官や市民はそれを知りません。一般の目がある場所では、違法行為は行わない様にお願いします」
 違法行為と言っても悪事とは少し違う。例えば、ラルヴァと戦う際に銃火器を用いる事など。あとは、警備員の本来の在り方を定めた警備員法に反している部分などだ。
 これらに関して問題にならない様に裏で話は付いているのだが、表向きには立派な違反行為。例えば、街中で銃や刀剣を持ち歩けば、警備員である事に関係なく市民は逃げまどい、警官が飛んでくる。仮に逮捕されても一時の事で、後で出してはもらえるのだが、仕事中に無用な揉め事はない方が良いだろう。
「それから、宵闇の者や業魂やラルヴァの事を、世間一般の人は詳しく知りません。よって、不用意に力を使うとトラブルの元となります。これも、一般人や警察等の目には注意してください。また、宵闇の者や業魂やラルヴァについて説明する事は基本的に避けて下さい」
 宵闇の者と業魂が超常の力を使えば、それもまた騒ぎを引き起こす事は必定。最悪、ラルヴァと同じく化け物扱いされ、無駄な争いを起こす可能性すら在る。
 パニックを起こした市民の通報で出動した一般の警察官と市街で銃撃戦なんて事は誰もが避けたいだろう。だが、有り得ない事ではないのだ。
 また、超常の存在について説明した所で普通は信じてもらえる筈も無い。仮に信じてもらえたとしても、自分の身を守る事も出来ない人間が超常の存在を知れば、無用な恐怖を日常に抱え込むだけの事となる。
 仕事を完遂する為、自らの持つ力が世間に受け入れられない異端なのだと認識した上で、慎重に行動する事が求められている。
芹沢・千雨 「当課では、現場での仕事に立ち入った指示を出す事はあまりありません。多くの場合、現場での判断に任されます。しかしそれは、仕事の成功を期待しての事。常に最良の結果を出せる様、責任を持って判断を下してください」
 仕事としてすべき事の説明は会社がするが、その仕事を完遂する為に何をすべきかは現場の人間に考えさせる。そして、仕事に完全に失敗してしまわない限りは現場が下した判断を尊重し、その結果がどうなろうと出来る限りのフォローをする。
「仕事中に周囲に与えた被害など、事後の処理はタイガ警備保障が責任を持って行います。仕事では後顧の憂い無く、全力を尽くして下さい。ただ……何事にも限界はありますので、とにかく無茶をしても良いという訳ではありません」
 芹沢千雨は、最後に一言添えて釘を刺した。
 タイガ警備保障の支払い能力を超える様な損害を出されても困る。ましてや、金銭では解決しない、失われては二度と戻らない物もこの世にはある。限界とはそう言う事だ。
「そして、当課のラルヴァへの対応についてですが……」
 軽く眼鏡に手をやってズレを直しながら言った芹沢千雨の台詞に重要さを感じ取り、室内は少しだけ静かになる。
「当課ではラルヴァは可能な限り捕獲していただく事になります。生きたラルヴァを捕獲して研究する事は様々な新発見に繋がり、それは必ず人類の発展に繋がるでしょう。捕獲は常に困難な試みとなりますが、皆さん果敢にこれに挑み、無事に遂行して下さい」
 研究の重要さを語る時、芹沢千雨の言葉に少し熱が入っていた。
 タイガ警備保障心霊対策課では、研究と技術開発の為、ラルヴァの捕獲を求めている。
 その成果として様々な特殊装備が開発され、人類がラルヴァに対抗する為の力となっていた。また、将来的には民間に技術が転用され、一般的な技術として普及して行くだろう。
 だが、その為には、誰かがラルヴァ捕獲という危険で困難な試みに挑まなければならない。そしてそれは、タイガ警備保障心霊対策課の警備員達に託されている。
 そして、もう一つ、警備員に託されているものがあった。
「最後にもう一つ……皆さんは警備員です。ラルヴァ対策も重要ですが、最も重要なのは警備対象を守る事だと覚えておいて下さい。また、警備対象を守る為にどうしてもそれが必要な時には、警備対象外の物を切り捨てる事も覚悟しておいて下さい。時には、警備対象を守る事に疑問を抱く事があるかも知れません。しかし、それでも警備対象を守るのが、皆さんの仕事です。これから始まる仕事の中で、それを忘れない様に……以上です」
 芹沢千雨は、そう言って諸注意を終えた。それは、職務の立場上の言葉かも知れない。
 研究以外に興味など示さない普段の彼女を知っていれば、なおさらそう思いもしただろう。彼女自身が、研究の為ならば警備対象を切り捨ててもおかしくはないと。
 しかし、それでも、芹沢千雨の言った事に誤りはなかった。
 ここに集った者達は、警備員なのだ。ならば彼らは守らなければならない。

 警備員に託されているもの……それは、警備対象の安全である。

writing by ALF
illust by つかさ要(芹沢・千雨)
illust by KENGOU(大河・アカリ)
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